幻冬舎新書の『加害者家族』(2010年/鈴木伸元)に出会ったのは、たしか2013年のことだったと思う。有名無名を問わず、犯罪加害者の家族が置かれる状況についてまとめた一冊だ。そこに描かれるのは、一夜にして社会から悪意と敵意を向けられる犯罪加害者の実際の生活だった。
読み終えて「なにか」したくなった。ただ、ボクはもともと脚本家として悪意や敵意を描くのが苦手だし、新書の中に描かれる実際の状況に触れ、フィクショナルなアプローチ、つまり、脚本化するのは早々に断念した。そこで、思い至ったのがこの新書をそのまま朗読することだった。
『仏教と当事者研究』(2014年)の関連イベントとして試演し、『
反孤立へのレッスン~「加害者家族」をめぐる朗読とトーク』(2015年)、
『そなえられない「災」〜『加害者家族』をめぐる朗読とトーク〜』(2017年)の都合3回上演した。
やらずにいられなかった主な動機は、せめて、どこからかかってくるのか分からない罵声の電話や、家の壁への落書き、ネット掲示板への書き込みなど「匿名の悪意」の存在を知らせたかったからではないかと、自分では思う。
加害者家族は被害者や被害者家族と向き合う前に、「匿名の悪意」と向き合わなくてはいけない。それは、少し違うのではないかと思う。
前置きが長くなったけれど、今週8/31(金)~9/2(日)にin→dependent theatre 1stで上演される、
yhs『きつい旅だぜ』は加害者家族を描いた物語だ。以前、脚本・演出の南参さんに『加害者家族』の話をさせていただいたのがキッカケに製作されたのだとおうかがいした。ボクにはフィクショナルなアプローチは無理と書いたけど、札幌公演を拝見して、南参さんの手によって舞台化されたことをとても嬉しく思ってます。
『きつい旅だぜ』は、事件をキッカケにバラバラに暮らす家族が20年ぶりの再会を果たすところから始まる。と言っても、重く苦しく暗い作品という訳ではない。チラシを見ると「なんちゃってコメディ」と書いてある。
楽しくなることを禁じられた人たち。いや、禁じた人たちというべきか。20年間バラバラに暮らした家族にボクたちが普段何気なく使う言葉としての「絆」はない。
だけど、そこには確かに「繋がり」があって、徐々にそれは「絆」とも「馴れ合い」とも異なる「繋がり」であることが、じんわりと伝わってくる。その「繋がり」を過剰に重くでも、過剰に深刻でもなく、じんわりと伝えてくる南参さんの手腕に舌を巻いた。
加害者家族は、本人の為したことではないこと(家族の犯した罪)のために、ある日唐突に悪意と敵意に取り囲まれる。「犯人」は「家族」である。その「繋がり」は断つことができない。無数の悪意と敵意は家族を分断し、社会から隔絶させ、一人ひとりを孤立させる。
言わずもがなのことではあるけれど、どうしても慎重に取り扱わなくてはいけないのは、加害者家族の向こう側にいるのは加害者本人ではなく、被害者本人であり被害者家族であるということだ。ここに、加害者家族が置かれる苦しみに対して、安易に「解決」をイメージすることが出来ない壁がある。
『きつい旅だぜ』には、ほんの一瞬、さらりとだけど自然とにじみ出る家族への好意が描かれるシーンがある。安易に愛とは言えない。好意。ただ、それが自然とにじみ出る様に胸が熱くなった。なにも解決しない。時は戻らない。被害者も戻らない。
ただ、その好意はたくさんのものを伝えてくれる。あっと言う間の1時間ほど。最初から最後まで食い入るように観てしまった。ぜひ、オススメ。ぜひ大阪公演に足を運んでほしい。
yhs『きつい旅だぜ』
大阪公演
■日程
2018年 8月31日(金)ー 9月2日(日)
8月31日(金)19:30
9月 1日(土)14:00 / 19:00
9月 2日(日)14:00
※開場は開演の30分前(受付開始は開演の45分前)
※未就学児童の入場は出来ません。
■日替わり出演
8/31(金)19:30 二朗松田(カヨコの大発明)
9/1(土)14:00 川下大洋
9/1(土)19:00 後藤ひろひと
9/2(日)14:00 加藤智之(DanieLonely)
■アフタートークゲスト
8/31(金)19:30 二朗松田(カヨコの大発明)
9/2(日)14:00 青木道弘(ArtistUnitイカスケ)
■料金 [日時指定・全席自由]
【一般】前売 3,000円 当日 3,500円
【学生】前売 1,500円 当日 1,800円
■公演詳細
http://www.yhsweb.jp/next-play
■チケット取扱
ローソンチケット [Lコード 54383]
演劇パス
LivePocket
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